今でも甦るアイコサンの声のひとつに「自立できないオンナはきらい」というのがあ ります。2015年に移住を決めた時、私は車の免許を持っていませんでした。愛子さん の車に乗せてもらい、ダメな時はタクシーでいいだろうくらいの軽い気持ちでいたの ですが、「自立できないオンナはきらい」の一言で目が覚め、教習所に通うことにな り、そして還暦にして運転免許を取得したのでした。 初めて私の運転で佐久方面に出かける日、愛子さんが助手席で道案内をしてくれるこ とになりました。愛子さんはトイプーのマーシャをしっかりと胸に抱いて「死ぬとき は一緒」と覚悟を示してくれました。 愛子さんは家具組立のトリセツを読むことを軽蔑していました。あーだこーだと工夫 するのが楽しいのだと言い張り、どうにもならないと癇癪をおこしました。 薪を買うことも軽蔑していました。春から秋にかけて、知り合いの伐採現場に残され た雑木を引取りに行き、斜面に踏ん張ってチェーンソーで丸切りにし、軽バンに積み 込み、家の庭で割って積み上げるという作業を繰り返していました。(私は一度、着い て行っただけで怖気づき、二度と伐採現場には近づかず、薪は感謝と共に買わせてい ただきます)薪置き場も自分で作ります。薪がどんどん増えるので薪置き場も次々に 増設します。敷地に積み上がる薪を眺める愛子さんの笑顔は預金通帳を眺めてご満悦 の笑みのようでした。 友人の家が火事になり、焼け残ったウッドデッキの材木をもらってきて、自分でウッ ドデッキを作りました。デッキといっても高さ 2 メートルくらいのもので、階段もあ りました。ペットショップで売れ残った猫を引き取ったらトイプーのマーシャを追い かけまわすので家の中に大きな猫小屋を作ったことも。 愛子さんは知り合いの大工さんの仕事をじーっとじーっとじーっと見る、という人で した。そうやって大工仕事を覚えたのです。まさに『野生の思考』(レヴィ=ストロー ス)のブリコラージュの人なのでした。 2017 年 7 月初め。愛子さんとホタルを見ました。「木もれ陽の里のちょっと南側の沢 でホタルが見られるよ」と教えてくれたのはシンフォの遠山美枝子さん。2016年6月 にシンフォに入団してすぐに、隣に座っていた遠山さんが教えてくれて、その夜すぐ に見に行って、大感激したので、翌年の 7 月も、愛子さんと一緒に見に行ったのでし た。池のほとりでぴかぴか光るホタル。ふわ~んと浮遊するホタル。空には星も出て いました。 それが愛子さんと一緒に楽しく過ごした最後の夜になってしまいました。 翌日、体調を崩した愛子さんは病院へ行き、不調の原因が分からないままに入院とな り、MRI も CT も PET も、ありとあらゆる検査をしても何も特定できず、どんどん 具合が悪くなるばかり。「肺に 1cmほどの癌があって、それが腹膜に転移した」とい